選挙制度のまとめ

分類の全体像

 選挙制度についての知識は、常識の範疇に属する事柄であるはずだが、複雑なためあまり知られていないように思う。かくいう俺も、いまいちよく分かっていない。そこで、できるだけ分かり易くまとめてみたい。簡単のため、必ずしも定義に沿った表現ではない部分もあるが、細かいことは気にしない。
 大きな分類軸として二本ある。一つ目は選挙区に関する分類であり、もう一つは代表方法(意見集約方法)に関する分類である。よく話題になる死票については、後者すなわち代表方法に関する議論だと理解するのがよいと思われる。小選挙区制は死票が多い、と言われるが、大選挙区制であっても必ずしも死票が少ないとはいえない以上、ミスリーディングであるように思う。

選挙区による分類

 選挙において選出される議員の総数をpとする。そして、各選挙区から選出される議員の数をn、選挙民が投票用紙に記載できる人数をmとする。
 選挙区についての分類は、n=1か否かで分けられる。すなわち、n=1の場合を「小選挙区制」といい、n≧2の場合を「大選挙区制」という。当然、小選挙区制では選挙区の数=pとなり区域は狭く、大選挙区制では選挙区の数<pとなり区域は広い。
 また、小選挙区制では当然にm=n(=1)となるが、大選挙区制ではm=nとは限らない。そこで、大選挙区についてはmに関してさらに分類が可能である。m=1の場合を「単記投票制」、2≦m<nの場合を「制限連記投票制」、m=nの場合を「完全連記投票制」という。

代表方法(意見集約)による分類

●総論
 代表方法についての分類は、多数派により有利か、少数派により有利かで分けられる。前者を「多数代表制」といい、後者を「少数代表制」という。さらに、いずれが有利ともいえない第三の類型として「比例代表制」が存在する。ここでは、51%支持率を誇る多数派X党と、39%の支持率に甘んじる少数派Y党を想定して考えてみる。
●多数代表制
 多数代表制は、前述の小選挙区制が典型例である。小選挙区制では、選挙区から選出される議員は1人であり、各党1人が出馬し、選挙民は投票用紙に1人を記載することになる。支持率に地域差がないことを前提とすれば、全ての選挙区でX党候補が勝利し、結果的に、X党の一党独裁となる。X党は51%の支持率にも関わらず、獲得議席は100%となる点で、多数派ゆえ「より有利」な結果を享受したといえる。したがって、小選挙区制は、多数派により有利な代表方法であるといえよう。
 この考え方を敷衍すれば、いくつかの小選挙区をくっつけてできあがる大選挙区についてもほぼ同様のことが言える。すなわち、3人を選出する大選挙区で、各党から3人出馬し、選挙民が投票用紙に3名記載できる場合である。この場合も、多数派に有利な代表方法であるといえる。
 一般化すれば、n=mの場合、多数代表制といえよう。選挙制度でいえば、小選挙区制と大選挙区完全連記投票制が、多数代表制となる。そして、多数代表制は、候補者の当選に直結しない多くの死票を生じるという弱点を抱えている。先ほどの例でいえば、X党候補に投票しなかった選挙民の49%にあたる投票が、死票となる。
●少数代表制
 少数代表制は、多数代表制でないものであるから、n≠mの場合である。選挙制度でいえば、大選挙区制限連記投票制と大選挙区単記投票制がこれにあたる。例えば、3人を選出する大選挙区で、選挙民が投票用紙に2名記載できる場合などである。X党から3名出馬した場合は、2名にしか投票できない選挙民は困惑する。均等に分散すると、3名ともに34%のしか票を集めることができず、Y党が擁立した1人(39%の票を取得)に負けてしまう。そこで、X党からは2人出馬することになろう。いずれにせよ、Y党から1人当選する可能性は高く、この点で、少数派に有利な代表方法であるといえよう。もちろん、必ずしも、少数派に有利に事が運ぶとは限らないが、その可能性が相対的に高い選挙制度である、という意味である。
 なお、多数代表制に比べ、死票の数も少ないことが期待できる。多数派から当選者が出ることは当然であるところ、少数代表制はさらに少数派からも当選者を出そうという制度であるから、死票(候補者の当選に直結しない票)は減るはずだ、という理屈である。先ほどの例であれば、選挙民の51%の投票はX党候補2名を当選させるために使われ、39%の投票はY党候補1名を当選させるために使われるため、死票は10%に留まる。
比例代表制
 最後に、比例代表制について述べる。比例代表制は、政党の得票率に比例して議席配分を決定する選挙制度である。各党その支持率の大きさに比例して選挙で有利不利になるため、多数派が多数派であることによって「より」有利になるわけでもないし、その逆でもない。なお、選挙区から選出される議員が1人だったら、比例もくそもないから(最大票数の獲得者が当選するだけ)、比例代表制大選挙区制を前提とする。
 比例代表制も、その具体的手法について、さらに分類することができる。まず、政党が作成する名簿を利用するか否かで分かれる。名簿を利用しないものを、「単記委譲式」という。要するに、選挙民が候補者に順位をつけて投票するものである。その後の処理は、いろいろあるようで、割愛。
 逆に、名簿を利用するものが「名簿式」である。そのうち、選挙民が政党のみを選ぶものを「拘束名簿式」といい、選挙民が名簿記載の候補者まで指定して投票するものを「非拘束名簿式」という。「拘束」とは、政党が作成した名簿の順位に拘束されるということである。X党を支持するが名簿順位第一位のx氏はまじ嫌い、という場合でも、拘束名簿式であれば、X党に投票すればx氏の当選のために票を投じたことになる。非拘束名簿式であれば、X党の別の人に投票すれば、かかる問題は回避できる。
 比例代表制は、必ずしも必然ではないが、小党分立となる危険性が指摘される。また、名簿式の場合は、選挙の直接性に反するとの批判がなされる。とりわけ、拘束式については、先ほどの例を考えれば明らかだろう。

わが国の採用する選挙制度

衆議院議員選挙制度
 全国300の小選挙区と、全国を11ブロックに分けた定数180の拘束名簿式比例代表制の二本立てである。「小選挙区比例代表並列制」というやつである。
参議院議員選挙制度
 各都道府県を選挙区として2人〜8人の議員を選出する大選挙区制(146名選出)と、全国区の非拘束名簿式比例代表制(96名選出)の二本立てである。「大選挙区比例代表並列制」といえよう。