売春と詐欺

女が売春してやるといって(実際には売春しないで)対価を詐取した場合は詐欺罪になる。男の不当利得返還請求権は不法原因給付ゆえ民法上は保護されず男に財産的損害がないようにも思えるが、刑法上は財産的損害があるとみるからだ。一方、売春後に男が欺モウによって女に対する代金支払を免れた場合は詐欺罪は成立しない。売春契約は公序良俗に反し無効だから女の対価請求権も存在しないとされる。
同じ売春契約なのに前者は有効を前提とし、後者は無効とする必要性が謎だったんだが、想像してみるとなんとなくわかった気がする。後者では詐欺罪を認めると売春を助長することになる。すでに売春がなされている場合に、その対価請求権を保護するのだから当然である。しかし売春がなされていない前者では、不当利得返還請求権を刑法上保護しても売春の助長には直結しない。売春をダシに(色気を使って)お金騙し取ったらダメですよとなるだけである。そもそも、前者では女が本心では売春をする気がないから問題になっているのであって、実際に売春をする気があり実行した後者とでは事案を異にする。前者後者の違いは、単に売春契約においていずれの債務が先に履行されたかの違いというわけではなさそうだ。