峠(上) 

 上巻を読み終えた。電車の中だけで1週間か。慣れてきたからか、これもサクサク進む。理念に基づく確固たる行動規範を持ちながらも、一方で特定の分野につき本能を優先させてしまう自分を悪びれないあたり、相当にている、と思った。が、そう思う日本男児は多いであろう。なぜなら、ある種の理想形だからである。行動規範を持たず、自由気ままに行きたいという、自分に甘い「遊び人」を目指す人もあろう。また、行動規範を確立し、自分に厳しく生きる「賢人」を目指す人もあろう。しかし、前者はしょうもなく、後者はかたくるしい、という評価を免れ得ない。そこで、折衷的に、自分に甘辛く生きようとすれば、本書の主人公のようになろう。だから、この本は支持されるのかもしれない。
 疑似感に続き、違和感も一つ、書きとどめておく。主人公が、山麓を開墾している師のもとへゆき、弟子になるくだりで、弟子になった後、主人公はかくかくしかじかで、開墾の手伝いをせずに、読書ばかりしていたというところ。どうも作者的にはこれもまた主人公の大物ぶり(?)を基礎づけるエピソードとして挿入している嫌いがあるが、そこには大きな違和感を感じた。新しく弟子がきて、こんな態度であれば、いかにそれっぽい理屈を述べようとも、俺なら確実にふるぼっこにしている。