「自立と葛藤」


鳥かごの中の鳥は今、不可逆なカゴの扉を開けて、羽ばたこうとしている。真っ青な、大空の中へと。かごの中で、栄養価の高いエサを食べつつ静かに過ごすのも、悪くはない。いや、最終的には、それは究極の幸せであるはずだ。しかし十二分に配慮された環境の中にいてさえ、外の世界に思いを馳せるのは動物として、当然の本能だろう。羽は、飛ぶためにあるのだからな。大空を自由に飛び回ることによって得られるメリットは大きい。その眼はどこまでも広く広くあたりを見渡し、その羽でどこまでも高く高く飛べるだろう。新鮮な風を受けて、実に気持ちがいいはずだ。しかし、腹は減るだろう。エサは自分で探さないといけないんだからな。でも、ハングリーな状態で、エサを探す旅ってのも、悪くはないだろう?もちろん、カゴにとどまることによるメリットもまた大きい。でも今鳥は、飛び立とうとしている。飛び立つための心の準備をしている。飛び立つことの、論理的必然性を求めている。そして、自由に飛ぶ自分を、想像している。運命の青い鳥は、果たして、カゴの中にいるのか、それとも遠い異国の地で待っているのか、鳥にはわからない。大空からカゴの中にそれを見出す可能性は大いにあるだろう。不可逆な扉を前に、鳥は何を思うだろうか。パラドックスではあるけれども、しかし、カゴの中に戻れるんじゃないだろうか。例えば軽く、キスをして。