総長の言葉(学位授与式)

・・・ 「運・鈍・根」のうちで私が重視するのは「鈍」、つまり愚直です。愚直とは、愚かなほどに正直なことです。より正確に言えば、周囲から愚かに見られるほど、自分の信念に忠実に行動することを指します。優れた能力を持つ人が、周囲の目には愚かに映るというのは、彼、あるいは彼女が、他人の評価や社会の流行を安易に受け入れることをせず、あくまで自らの信念に則って行動するからです。外部からの信号に同調するのではなく、自らの内部にあるジャイロスコープに従って行動する人間が、私のイメージする愚直な人です。  
 彼、あるいは彼女は、付和雷同しません。しかし同時に、頑なでもありません。彼、あるいは彼女の信念は、確実な根拠に基づいて考え抜かれたものであり、それゆえに単なる流行に付和雷同することはありません。しかし、自分よりも優れた見解に出会ったときは、それまでの見解を潔く変更する決断力を持っています。実は、こうした愚直な人間像こそ、私が長年理想としてきた研究者の在り方なのです。・・・