実験砂場

卒業した

 今日、東京大学大学院情報学環コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム(以下「本プログラム」という。)を卒業してきた。今年で、このプログラムは終わってしまうので、後輩たちへというよりは、自分のための備忘録としてということになるが、この二年間を振り返っておこうと思う。全体の感想としては、いい経験になったし、楽しかった。知見にしろ、人脈にしろ、それが効いてくるのはもうちょっと先だろうけれども、いつかどこかで「やっててよかった」と思うときがくるんじゃないかと期待している、

本プログラムの発足の背景

 市場規模の拡大により重要産業として、また、ソフトパワー政策の観点から自国文化の発信ツールとして、コンテンツ産業が着目されたが、米国の優位性とアジア諸国の追い上げによって、日本のコンテンツ産業は危機的状況にあった。このような背景の下、かような状況の原因は、わが国ではコンテンツ産業を牽引していくプロデューサ等の教育に対する取り組みの遅れにあるのではないかとの問題認識から、文部科学省の科学技術振興調整費の助成を受け、2004年から5年間の計画で、東京大学大学院情報学環に設置されたのが、本プログラムである。以下、原島教授(代表)が書かれた「開設趣旨」から少し引用しておく。

 …今日、わが国で制作されたアニメーションが海外ではジャパニメーションと呼ばれ、北米大陸ではテレビゲームをわが国の代表的なゲーム機メーカーの社名で呼ぶなど、わが国のアニメーションやテレビゲームなどのデジタルコンテンツは海外で高い評価を受けています。また、わが国のコンテンツ市場は約12兆8,000億円であり、そのうちの約2兆1,500億円をデジタルコンテンツ市場が占めています。わが国からの平成13年(2001)度のコンテンツ輸出額は3,258億円に達しています。しかし、見方を変えれば、世界のコンテンツ市場に占めるわが国のシェアは約10パーセントにとどまって、最大シェアを誇るアメリカ合衆国に大きく引き離されているばかりか、近年では、国家的なコンテンツ振興政策を推進している韓国や中国に激しく追い上げられ、窮地に立たされようとしています。そして、わが国のコンテンツ貿易は長く輸入超過の状態を脱していません。
 このような状況に対して、2004年4月には内閣府知的財産戦略本部コンテンツ専門調査部会が「コンテンツビジネス振興政策−ソフトパワー時代の国家戦略−」を策定して政策提言を行い、同年6月には「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律」(平成16年法律第81号)が制定されて、わが国でも抜本的なコンテンツ振興政策の方向が打ち出されるに至りました。…

本プログラムの目的と結果

 本プログラムの目的は、「わが国における映画・アニメーション・テレビゲームなどのデジタルコンテンツ創造の実績をふまえて、さらに優れたデジタルコンテンツを生み出すことのできる人材の養成」である。より具体的には以下の三種類の人材育成である。それゆえ本プログラムを受験する段階から「プロデューサコース」と「クリエイタコース」に分かれていて、選抜方法も異なったが、履修可能な授業科目などに差異はなかった。目的に適った人材を確保するために、選抜方法も異にしたというだけだろう。ちなみに俺はプロデューサコースで、ピコはクリエイタコースである。

  1. 先端科学技術に関する知識を有すると同時に国際的なビジネス展開力を持つプロデューサー
  2. 製作現場における技術的要請を的確に判断して新たな開発を進める技術開発者
  3. 以上のようなプロデューサーや技術開発者を教育する指導的教育者

 文部科学省へは5年間(選抜試験は4回)で60名の人材育成をすると申請したらしい。修了要件については、厳しくしようと最初から決めていたらしく、終了率50%を見込んでいたらしい。そこで、余裕をもって(修了者を60名未満にはできないので)、2倍強の147名に入学を許可し、最終的にはそのうち81名が終了したようだ。毎年の受験倍率が、約3倍だから、500名弱の人が参加を希望し、その1割弱が終了したことになる。
 本プログラムはが面白いのは、人材育成と同時に、コンテンツ教育そのものの開発も兼ねていた点だろう。そもそも、総合大学が理文越境的にコンテンツ教育をすること自体始めての試みだったからだ。それゆえ、毎年、前年のフィードバックを活かしてカリキュラムが微妙に変わる。だから理論上、最終学年の俺たちは一番よい授業を受けた…はずなんだが、受講生が少なくて開講されなかった科目もあるので、一概には言えない。本プログラムで得られた、コンテンツ教育に関する知見は、「コンテンツコア」という大学院組織が管理分析していて、学部横断的なプログラムである「メディアコンテンツ」に活かされている。要するに、本プログラムは、教育プログラムとしては先駆的であるゆえに試験的であったわけだが、ここでの経験は、学部横断プログラムとして次の教育に活かされているということだ(この「メディアコンテンツ」という横断プログラムは今春から正規履修プログラムになるらしい。院生の俺らは取れないが、来春まだ学部生の人はぜひどうぞ)。

本プログラムの教育と効果

 上述の目的達成のため、本プログラムでは、以下の4種類の科目群が準備されていて、それらについて一定単位数を履修することが、卒業要件とされた。

  1. デジタルコンテンツ創造科学講義(デジタルコンテンツ創造のための基礎理論や基礎知識に関する授業を主として講義形式で行うもので、3科目(6単位)以上を履修する。)
  2. エンタテインメントテクノロジー研究(デジタルコンテンツ創造のための科学的先端技術に関する授業を主として講義あるいは演習形式で行うもので、2科目(4単位)以上を履修する。)
  3. デジタルコンテンツ創造科学特論(デジタルコンテンツタイプごとに、作品批評や製作現場のリアルな問題に関する授業を主として講義あるいは演習形式で行うもので、2科目(4単位)以上を履修する。)
  4. デジタルコンテンツ創造科学演習(履修生の希望や成績によって履修科目が決まり、産業界におけるインターンシップあるいは本学内で製作・マーケティングシミュレーションや研究指導(論文指導)などを行うもので、1科目(6単位)を履修する。)

 以下、履修科目の、科目紹介を引用しておく。

<創造科学講義>

  • 「コンテンツ法務」:本講座の目的は、コンテンツのプロデューサーに求められる著作権法の基礎知識を養い、コンテンツ製作に関連する権利及び権利処理を的確に行う実務知識を得るとともに、契約に関する基本概念を身につけることを目的とする。また、将来のプロデューサーとして必要とされる海外展開及び海外取引についての基礎を学び、国際的に通用するプロデューサーを育成することを重要な課題とする。
  • 「コンテンツ財務」:コンテンツ分野においても資金調達の重要性はここ数年クローズアップされており、金融に関する基礎知識の取得はもちろんの事、昨今の複雑化するコンテンツファイナンスの動向についても理解をする必要性は増している。ビジネス的な観点からは、如何なるコンテンツ製作においてもケースバイケースに適合した「資金調達」を効率的にすることが求められている反面、この分野はなかなか取っ付き難いモノであると思い込んでしまうのも事実である。具体例を用い極力分かりやすく授業を進めていきたい。

<テクノロジー研究>

  • インターフェイスデザイン」:「インタフェース」とは、もともと機器と機器を接続する端子や回路・ソフトウェアを意味する言葉である。これに「ヒューマン」という言葉を付け加えることによって、人間の存在がクローズアップされることになる。狭義には、人が各種メディア(機械やコンピュータ)を使う際に利用する、キーボードやマウスなどがヒューマンインタフェースの代表例となる。人にとって操作し易いメディアを作る仕組みとしてのヒューマンインタフェースは、人間工学に基づく様々な知見があってこそ成し得る技術である。一方で、人とメディアの関わりは、必ずしも一対一ではない。複数の人間がメディアを介して結びつく場合には、単に操作し易いだけでは足りない側面が多々ある。ときには、社会や文化の違いにまで配慮したインタフェースによって、円滑な相互理解が図られることもある。個人の人間工学的な特性だけでなく、どのようなコミュニケーションをメディアに望むのかという議論が重要なのである。本講義では、主に人間の感覚系に関する様々な知見と、それに基づくヒューマンインタフェースの実装・デザインについて技術的な観点から紹介する。そして、現在の技術的背景のもとで、どのようなインタフェースが今後必要になってくるのか、我々は何を望むのか、について皆さんと一緒に議論を深めていく

<創造科学特論>

  • 「ゲームプロデューサ論」:本授業は、ゲームの開発工程(プリプロダクション、プロダクション、ポストプロダクション)のうち特に企画(プランニング、デザイン)と制作(プロダクション)の過程を中心にとりあげ、ゲームをいかに企画し、いかなる技術を用いてどのように制作するのかという問題を、ゲームプロデューサーの立場から講義します。授業のトピックは、ゲームプランニング、ゲームデザイン、プロジェクトマネジメント、そしてゲームテクノロジー、R&Dです。さらに、希望者を対象に、独立系のゲーム会社の見学を実施して、制作現場では実際にどのようにプロジェクトが回ってゲームが開発されているのかを知るとともに、最新のゲームテクノロジーを体験します。
  • 「デジタルメディア」:わが国の代表的な「コンテンツ」と言えば、アニメ、ゲーム等が挙げられるが、近年、コンテンツの意識も高まり、様々な分野でコンテンツの重要性が語られるようになっています。本授業では、このような背景から、コンテンツを上述のアニメ、ゲームに特化せず、より広義なコンテンツ(ケータイコンテンツ、Webコンテンツ、TVコンテンツ等)に焦点を当て、これらの現状と今後の動向を概説します。

<創造科学演習>

  • 「論文作成」:これまで教育プログラムで学んだことを踏まえ、指導教員の個別指導を受けながら、論文の完成を目指す。論文の主題については、既存の各種コンテンツに関する批評・批判にとどまる内容ではなく、新たなデジタルコンテンツを生み出すための科学技術や、コンテンツに関するマーケティングや商品流通の実態と今後の展望など、デジタルコンテンツの発展につながるテーマを定める。

<その他>

  • どの科目群に入れてもいい特別講義が2つあって、それを両方とった。

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 並べてみると、結構授業とってるな。じゃあ、何かができるようになったのか?と言われると、それはよくわからない。何かを深く学んだというよりは、幅広く情報を収集したという感じかな。なかなか、コレ!といった成果物として示せないのが残念だが、わかりそうでよくわかんない業界の実情について、ちょっと分かったよってとこかな。むしろ、本プログラムを通じて受注した各種バイトが思い出+いい経験になったと思う。やったことは、

  • 某代理店の内部用著作権育成プログラムの作成の一部(りょーだい×ぶしょー×俺)
  • 東京コンテンツマーケット2008で経産省が配布する著作権のパンフレットの執筆全般(りょーだい×俺)
  • 加藤寛の列列口伝」(BSフジ)の最終回に出演(俺含め学生は5名)
  • 某法律事務所のWEBページ作成(ピコ×コージ×俺)←本プログラムとは関係ないかw